katoreen101の日記

学校教育と授業研究・アートと猫と…あとはあれこれ

新学習指導要領・図画工作科に求められること

これからの図画工作科について考察してみた 

 ãããªã¼ç´ æ å³å·¥ãåçãã®ç»åæ¤ç´¢çµæ

 30年度から新学習指導要領への移行が始まる。私の勤務していたS市においても市教委主催の説明会などが行われ、各現場では特に英語の時数の確保や道徳の教科化などへの準備などに関心が高まっている。

 しかしながら一番肝心な新学習指導要領で育成を目指す「資質・能力の3つの柱」について、果たして現場の中でどれだけ周知されているのだろうか。

 S市教委は従来「課題解決学習」を推進してきたので、今までと大きく変わらないと説明している。

この説明には大きく分けて2つの心配がある。

「課題解決学習」はすでにどの学校でも実施されているので、今まで通りの授業をやればいいと考えている多くの学校、または教師が実際に「課題解決学習」を行っているのだろうか、という不安が心配の一つ目である。

 もう一つは、例えば「知識・技能」が、相変わらず「個別の知識の量」のことであると至極安易に受け取られてしまっているのではないかということである。その誤解のまま、「何を理解しているのか、何ができるのか」が問われているとなると、またしても徹底的に知識を教え込み、テストで結果を出すことを強いられるのではないか、ということである。

 では、学校現場は具体的に何をどうすればいいのでしょう。私としては、何のことはない、まずは教科をしっかり教えるところから着手すべきだと考えています。もちろんそれは各教科に配当された領域固有知識を単に量的にたくさん習得させるということでは毛頭ありません。子どもたちが明晰な自覚をもってその教科ならではの「見方・考え方」を身に付け、さらにその教科が主に扱う領域や対象を踏み越えて、それらを様な 問題解決に自在に駆使できるようになるということです。

奈須正裕 「資質・能力と学びとのメカニズム」より

 

「今までと大きく変わらない」、「まずは教科をしっかり教える」という言葉だけを抜き出しては安易に解釈してしまうことは慎まなくてはならない。現場においては、積極的に新学習指導要領について研修し、どういう経緯で「資質・能力の3つの柱」が生まれてきたのかを知ることから始めていかなくてはならないと感じる。 

◽️図画工作科の「見方・考え方」   é¢é£ç»å

 さて、では図画工作科の教科ならではの「見方・考え方」とはどのようなものだろう。

  

 図画工作科で示している「造形的な見方・考え方」とは、「感性や想像力を働かせ、対象や事象を、色や形などの造形的な視点で捉え、自分のイメージをもちながら意味や価値をつくりだすこと」であると考えられる。

  移行期間中においては、「造形的な見方・考え方」が図画工作科を学ぶ本質的な意義の中核となるものであることを踏まえ、子どもがどのような視点で物事を捉え、どのような考え方で思考していくのかを捉え指導することが大切である。特に「感性や想像力を働かせ」は現行の教科の目標にある「感性を働かせて」と深く関連していることから、子どもが自分の感覚や感じ方を大切にする指導を重視する必要がある。

岡田京子 「図画工作科における移行期間中の実践」より

 

 つまり、見方・考え方については、「子どもの視点にたって」「子どもの感覚や感じ方を大切に」する教師側の「子どもを見る見方・考え方」も重要であるといっている。

したがって、この移行期の間にまずは一人一人の子どもの側に立ち、今この子は何を感じ、何を考えているのかを教師が「思いを重ねて」いく取組を進めていかなくてはならない。しかし、それは実際どのようなことなのだろうか。

ãããªã¼ç´ æ å³å·¥ãåçãã®ç»åæ¤ç´¢çµæ

◽️資質・能力の三つの柱

(今回の改訂で)教科の目標の具体は「(1)知識及び技能」「(2)思考力、判断力、表現力等」、「(3)学びに向かう力、人間性等」の三つの柱に対応して構造が整理され、育成すべき資質・能力がより明確になった。

図画工作科でいう「知識」とは何だろう。

 

図画工作科でめざす「知識」には形や色の名前などの「事実的な知恵」だけではなく形や色の概念といえる「概念的な知識」があります。目標の(1)の「知識及び技能」には「対象や事象を形や色などの造形的な視点で捉え」とあります。対象や事象とは「物の様子や、出来事(もの・こと)」です。それを色や形で捉えるという主体的な行為が知識を得ることです。低学年では「色にはいろいろある」ことを「気付く」という文言で表しています。「赤や青」などの名称を覚えるのでありません。

阿部宏行 「新・図工のABC」より

 

 さらに阿部氏は「知識及び技能」について同書の中で、次の5点にわたって大変丁寧に例示し解説している。

 

その①…知識=「知恵」ともいえる。「事実的な知識」に留まらず、生きて働く「概念的 な知。

その②…知識=身体化された知

その③…行為は知識を活用して「さらなる知識」を得ている

その④…技能=自分の経験や他の技能と関連付けられ、状況や課題に応じて主体的に活用できる技能。

その⑤…技能=思いを実現させていくために獲得していくもの

 

さらに「思考力、判断力、表現力等」については、それらについての指導事項を、A表現(1)の「発想や構想に関する項目」B鑑賞(1)ア、[共通事項]のイの3か所に位置づけ、「思いつく」や「考える」「見付ける」、「選ぶ」、「感じ取る」、「イメージをもつ」などの文言で説明されているとし、「知識及び技能」、[共通事項]と合わせて常に1対的に関連させて指導することが重要であると述べている。

「(3)学びに向かう力、人間性等」については実践例を考察したのちに考えていきたい。

             ãããªã¼ç´ æ å³å·¥ãåçãã®ç»åæ¤ç´¢çµæ

◽️どんな資質・能力が育まれたか

 見方考え方や3つの柱がわかったところで、実際の授業の場面でどこにどのようにしてあらわれるのか、何をもって、どの力がついたのかということがわからくてはならない。

そのために具体的な授業の場面・事例を通して、それらの力がどこでどのように育まれているのかをみて行くという作業を積み重ねていく必要がある。

それらについては次回の記述したい。

 

 もう一つの資質・能力である「学びに向かう力・人間性」については活動の具体的な場面からではなく、題材全体を通じて、また授業後の子どもたちの様子など学級担任のエピソード記述から考察していきたい。

これは「おってたてたら~1年3組「○○ワールド」をつくろう~」という題材を終えての担任教師の語りである。

 

エピソード1 「パワーが付いた!」

 漠然としているのですが、この題材を終えた後、クラス全体にパワーが付いた感じがします。友だち同士の壁がなくなったというか、そっけなさがなくなって自然に関わるようになっていきました。それは他の教科の学習の中でも見られます。座ったままの学習体形が自然に寄り添いあったり、友だち同士集まって考えたり動きが出てきました。あと、お互いによさを褒め合う言葉が聞かれるようになりました。「○○ちゃんの塗り絵きれいだよね。」とか「○○くんのすごいね。」という言葉が当たり前のように出てくるようになりました。個々の子どものその後の話ですが、活動のエピソードででてきたAちゃんは他の子たちが作っていた「危険生物」に興味をもって図書室で「危険生物」の本を借りてきてお家で読んでいるとお母さんから聞きました。今まで、あまり生き物に関心を抱かなかったのに、とお母さんも不思議に思っていたそうです。また、Y君ですが苦労して紙を折って立体にすることを覚えたためか、次の図工でも折って立たせる部分にこだわりをもって取り組んでいました。つくったお魚を小さく絵に描きなおして、自分のマークにしていた子もいてほほえましかったです。

 

考察

 担任教師が「漠然としているのだけど」と前置きしながらも子どもたちに「パワーが付いた」と感じ取ったことは、大きな成果だと感じる。

 実際にそのクラスに行くと、困っている子に「がんばれ~」と励ます声や、友だちの成長に「すごいね。」という言葉など、お互いを気遣い、声掛けしている様子にしばしば出くわす。それを「パワーが付いた」という言い方で表現していた先生は「集団としての高まり」を感じ取っているのではないかと思われる。子どもたちにどんな力が付いたのかということを問われた時、「個」の変容に目が向きがちであるが学級集団の力の高まりということは無視できない。

 その上さらに、担任教師は保護者からの情報や普段の様子の観察から、子どもたちが、奈須先生の言う「その教科(図工)を踏み越えて様々な問題解決に自在に駆使できる」ということにつながる可能性を見つけている。しかしながら、全ての子どもに対してまんべんなく一つの題材で見取るのは難しいであろう。学びに向かう力・人間性を教科の枠の中だけで考えるにしても、一人一人の育ちをある程度の長さの時間の尺の中で見取っていくことが必要に感じられる。

f:id:katoreen101:20180610223633p:plain