12月1日、オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP)主催のセミナーが行われ、参加してきました。
場所は東京大学本郷キャンパス鉄門記念講堂、医学部にあるホール。
日本の推しも押されぬ最高学府、しかも医学部の建物に入るとあって緊張…
土曜日の大学は人影もまばら。
この医学部の各階では、いったいどないな実験をしているのだどうと思うと、緊張ではなく、もはや恐怖。
場違いすぎる私が迷い込んだことで、眠っていた妖怪が目を覚ますのではないかとドキドキでした。
さても、実際の会場は写真の古い建物の裏の近代的な14階建ての最上階にある300人ほど入る広い階段教室、妖怪と思しきは、皆さんちゃんと人間だったようなので一安心。
ここが初めて入った東京大学!
それだけなのに「エヘン!」という気分になった軽〜い私でした。
受け付けをしたらレジメも何もなく、好きなところに勝手に座ってくださいという、なんともイージーな雰囲気。
この日のプログラムについてもペーパーは一切なく、プレゼン画面に映し出されるだけ、こんな感じでした。
プログラム2番の4名の各20分ずつの講演が圧倒的におもしろくて、
どの人の話もじっくり、もっと時間をかけて聞いてみたいと思わされました。
で、どんな内容かという事にすんなり話をすんなり進めればいいのですが、
そもそも、このセミナーのタイトル
「対話の現象学と人類学」
なんです。
何が現象学で、何が人類学なのか。
精神医療の分野のセミナーで、参加者も精神科医や心理士、精神疾患を抱える当事者や家族だし。
で、一応色々あるけど真ん中のテーマは「対話」で
4人の講師の話は全部おもしろいのだけれども、噛み合っているようで、そうでもないようで、
「ん?なんだ??」と思うこともあるのです。
…思うに、オープンダイアローグ(以下OD)の要素の一つ「不確実性への耐性」の上に成り立っている、
…例えるのなら、巨大な「対話」という立体ジグゾーパズルのあっちのピースとそっちのピースをはめててみよう、という試み
そして様々な立場の参加者が、自分で「対話」について深く考えるきっかけにしていくためのセミナーなのだ
という印象を得たのでした。
という長い前置きをした上で、トップバッターの斎藤環氏の話を紹介します。
斎藤氏はODを日本に広めた人で、朴訥とした語り口ながらも、カリスマっぽい風貌が印象的でした。
タイトル「浅層心理学のススメ」
ある哲学者によるOD批判について
・ODは秘密を作らせない
・ODは無意識と向き合わない
・ODはコミュニケーションから「深さ」を消滅させる
つまるところこの批判は「ODは精神分析的でなく、真理の審級を軽んじているのではないか」ともなろうか
ODは無意識と向き合わない?
・「分析」と「解釈」は推奨されない
・「無意識の真実」より「非真実かもしれないナラティブ」が重視される
・「無害な非真実」(VONEGATTO『猫のゆりかご』)の価値
・→浅層心理学(リュムケ/中井久夫)の可能性
・個人精神療法は人工的、N対N(複数人対複数人)が対話の本来の姿(SEIKKURA/神田橋)
・「つながりによる治癒」という(ODに対する)誤解
ポリフォニー≠ハーモニー つまり、ポリフォニーはハーモニーやシンフォニーではない
オープンダイアローグと精神分析治療文化として
・ODのルーツの一つが力動精神医学(精神分析的)
・しかし、ODは「精神分析」に否定的な態度を維持している
◇解釈の禁止
◇「抵抗」の尊重→「徹底操作」しない
◇「転移」や「逆転移」を問題にしない(そもそも起こらない。それらは治療するもの、されるものという関係において起きる)
◇「治療的中立性」を重視しない
◇真理の審級として「無意識」を重視しない
◇そもそもシステム論が精神分析と対立的である
治療チームとネットワーク
・チームでネットワークを修復する
・2者関係の密室からの開放
・権力構造のフラット化とネットワークの参加→転移の起こりにくさ
・治療者による抱え込みや過度の依存関係が生じにくい
・「聴取」の文脈の複線化(≒ポリフォニー)
・「中立性」からの開放→治療者の変化
・垂直方向のポリフォニー=内言
・vertical polyphony =inner voice
「浅層心理学」の可能性
・「病理モデル」からの脱却
・個人療法からの脱却
・転移と主体性の関係
・「語られたこと」のみに照準
・ネットワークの重視
・「身体の有限性」活用
・心理的OSよりも気質的OSの活用
・ポリフォニー
複数の非真実(余白あり)>>単一の真実(余白なし)
治療において大切な5つの要因 SPORN
◇S スペース 空間 余白
◇P ペース 進度
◇O opportunity 機会
◇R ルート 通過点
◇N ナラティブ
と、まあこのような内容の講演でした。
教育分野からの参加の私としては、教育現場でも共通する考えを掬いとるような聞き方を自然にしてしまうのです。
最後の治療において大切な5つの要因 SPORN。
これを治療ではなく「授業」に置き換えてみると…
◇S スペース 空間・余白 =教室の環境、学びの多様化
◇P ペース 進度 =学習者それぞれのペースの尊重
◇O opportunity 機会 =学ぶ動機、教材や仲間との出会い
◇R ルート 通過点 =一本道ではない学び
◇N ナラティブ =一人一人の学びのストーリー
治療と授業を結びつけるのは些か乱暴な気はしますが、
どちらも人を「今いる地点から、新たな広がりのある世界へ変容させる」
ために大切な要素はどうしたって、似かよってくるのだという事に、また改めて気付かされた思いでした。
セミナーが終わったのは日没直後。
医学部ビルの14階の窓からは夕焼け空に浮かんでいる富士山のシルエットが見えました。
古今東西の日本の天才たちもここから富士山を眺めたのかな