katoreen101の日記

学校教育と授業研究・アートと猫と…あとはあれこれ

主体的で対話的な深い学びの風景⑤ 〜最北端の街、稚内に再訪して〜

11月に入りました。

6月に訪問した稚内の小学校に再び訪れる機会をいただきました。

 

稚内=きっと超寒い!

と思い込み、覚悟を決めて行ったのですが、思いの外、とても良い天気に恵まれてちょっとした行楽気分でした。

 

学校ではT校長先生が笑顔で出迎えてくれてました。

たった2度目の訪問なのに「ただいま」と言いたくなるのは、私がかつて似たような海辺の学校に勤務していたからなのか、この学校の醸し出す空気が優しくて柔らかいからなのでしょうか。

とにかく、居心地がすこぶるいいのです。

 

この日は、地域の中学校区の学校の先生たちが集まっての授業研究会でした。

隣の小学校の先生たちと子どもたちが進学する中学校の先生たちが一堂に会し、授業を参観し検討会を開きます。また、先生たちだけではなく、地域の人々にも広く参加を呼びかけている、まさに地域皆んなで子どもを育てるという考え方に立った授業研究会でした。

 

T校長先生の下、学校をあげて「対話的で主体的な深い学び」に先生たちが熱心に取り組んでいる授業はどこも見所満載ですが、私は6月に引き続き3年生の教室を参観しました。

 

あの地図記号に夢中になっていた子どもたちです。

 

www.katoreen.com

 

3年生の6人の子どもたちはペアで算数の問題に取り組んでいました。2つほど問題を解いたあと、先生は難問を出しました。

 

 それぞれ同じ重さの赤いボールと青いボールがあります。赤いボール5個と青いボー ル3個の重さをはかったら2Kg750gです。

赤いボール3個と青いボール5個の重さをはかったら2kg450gありました。

赤いボールと青いボールそれぞれの重さは何gですか。

 

…いわゆる「つるかめ算」というやつです。3年生にはかなりの難問です。

どうなるだろうと思いきや、一人の男の子が

「これは難しいよ。皆んなで力を合わせなきゃ。皆んなでやろう!」と提案。

「そうだね!」と早速6人が頭を付き合わせて問題をホワイトボードに図解したり、式を書いたりしはじめました。

 

正に頭を突き合せる、という言葉がぴったりです。

「でも!」「あ!だから…」「え、そうか!」という言葉が飛び交ったかと思えば、「えーと…」と、じーっと黙り込んで図を見つめたり。

 

参観していた先生たちも固唾を飲んで子どもたちの言葉を真剣に聞いていました。

 

問題が難問なため、なかなか良いところまでいくのですが答えに簡単にはたどり着きません。でも子どもたちは粘り強く追究をやめようとはしませんでした。

 

この中で私は次の2人に注目していました。

一人は算数があまり得意でないように見受けられたZ君、

もう一人は担任のM先生です。

 

Z君は一人で進めるのは難しいよう思えました。

みんなで考えるといっても、一人だけ置いていかれるのではないだろうか、考えるのをやめて外れてしまうのではないだろうか。そう心配になって様子を観ていました。

 

Z君は、友達が熱心に話していることの中にはわからないことも少なからずあるように見受けられました。

でも、考える輪の中からは決して外れることはなく、自分ができることがないかずっと皆の話を聞いています。そして時折「ぼく、その筆算やる!」などと言いながら参加し続けていました。

学ぶ意欲を持ち続けていました。

 

 

「ぼくだけわからない。」にではなく「みんなもわからない。」こと、

そして、自分も「皆んなで考える一員である」という相互の承認が子どもたちの関係に根付いていること

それがZ君をこの場で学び続けた大きな理由だったのではないかと思いました。

 

ところで、この難問を小学3年生の子どもたちが答えにたどり着くことができたと思いますか。

 

最後の最後まで「もう少しでたどり着く」ラインを行ったり来たり、

結末はM先生が子どもの声を上手くつなげて見事に解くことができました!

 

子どもたちの歓喜の声、参観していた先生たちも思わず拍手しそうになるほどの大盛り上がりで終わった授業でした。

 

授業後の話し合いの中でM先生は

「授業が終わったあとも、子どもたちの興奮がなかなか醒めませんでした!」

と話していました。

 

さて、M先生です。

M先生は6月に見たときのように実に絶妙な子どもとの距離感を保っていました。

子どもたちが頭を付き合わせて熱心に議論しているときは、結構離れた場所から笑顔で見つめているだけ。

やがて子どもたちの話していることを黒板に図で整理したり、

それを指して「これはなんだっけ」とか、

「それで?」とか

子どもの声を聴きながらつないでいくだけで、言葉数も極めて少なめです。

 

子どもたちを信じて委ねて待っている姿。

「教師は教える」「子どもは先生のもっている正解を取りに行く」のではなく、子どもが主体的に学ぶために、課題を選び、子ども同士をつないでいく。

さすがM先生!、私自身今回も多くのことを学べたと感じました。

 

しかし、

実はM先生は、大変に悩み、自問自答を繰り返しながら、このような授業実践を進めてきた、

ということを授業後の話し合いの中で知ることができました。

 

授業というものは

課題をしっかり板書し、ノートに書かせ把握させる。

見通しをもたせ、自力解決させる。

自分の考えを発表させ、全体で交流させる。(これが学び合い)

最後はまとめと振り返りをノートに書かせる。

というものでなくてはならない。

と長年信じていた。

 

しかし、この日の授業はそれらのどれもなくて

でも子どもは深く学んでいた。

 

「今、自分たちが目指すのはこのような姿でいいのだろうか。」

 

ということを自分に再び問い直していたのです。

 

そのあまりにも謙虚で思慮深い問いのおかげで、さらに授業後の話し合いが深まったのはいうまでもありません。

 

絶えず「問い直す」というたゆまぬ姿勢に

またまた深く学ぶことができた最北の街での1日でした。

 

美味しい食べ物

美しい景色

 

これから始める過酷な厳しい冬の暮らし。

そして学び続ける子どもと教師たち。

 

稚内で私も「主体的で対話的な学び」ができました。

T校長先生をはじめ、関係の皆様に深く感謝いたします。

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絶海に浮かぶ秀峰利尻富士はまもなく人を寄せ付けない真っ白い山となります

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